なにもない環境の中で現在地を測るための、羅針盤としての建築
千葉県・九十九里浜に面する1.2haの敷地に、わずか4区画の分棟型ホテルと管理棟を新築する計画である。都市計画区域外のため、敷地周辺には原野や保存林など多くの自然が残る一方、敷地と海岸の間には高さ8mの砂丘があり、津波等の自然災害から砂丘背後地を守りながら、海への視線を遮断していた。クライアントが望むオーシャンビューの実現には建築を中層化する必要があったが、景観への配慮や、低層階は依然として眺望以外の価値付けが必要等の課題があり、商業的には不利な状況だった。一方で、砂と空と原野しかない環境は、原初の大地に対峙するような豊かさもあるように思われた。ホテルと宿泊者という関係を超え、より大きなスケールで人と自然が密に関わり、その動向を刻明に感じられる環境を、GL+0レベルでつくれないかと考えた。
はじめに、原野の中で自らの位置を測る基準として、各真方位に向いた十字壁を配置した。それを反復すると、大小/開閉の様々な庭ができる。十字壁の上に方形屋根をかけると、1枚の屋根につき4分割の内/半外/外の区別ができた。最後に4区画の陣取りを行い、区画形状を決定した。このプロセスから、1区画につき1つの母屋・2つの離れ・4つの庭・7つの部屋で構成される。ホテルとして明確にプライバシーは確保しながらも、自由な区画取りにより1枚屋根を2区画で共有する部分もあり、本来無縁の宿泊者同士が同じ自然を共有して観測する者同士として、暗に共同体のような状態を形成している。宿泊者は十字壁を基準として、ある時間・ある方位に、ある部屋・ある庭へと巡りながら、その時々の自然の移ろいを感じて過ごすことができる。1区画は延床面積100㎡・区画面積700㎡程度とし、屋外で過ごす時間の方が長くなるよう想定されている。敷地境界を超えて、大地のもつ時間や風景を感じて佇むことのできる建築を目指した。
Client / corporation
Location / Sosa city, Chiba
Site area / 11,747.44㎡
Built area / 476.48㎡
Completion date / April 2024
Structure / timber structure 1story
structure engineer / Hirofumi Ohno, Naoki Kokuno|Ohno Japan Ltd.
Contractor / Sakura Jyuken Co., Ltd.
Photographer / Kai Nakamura
Staff / Hiroyuki Shinozaki, Hiroki Masuda, Frans Jonathan, Takuya Tani
クライアント / 企業
場所 / 千葉県匝瑳市
敷地面積 / 11,747.44㎡
延床面積 / 476.48㎡
完成時期 / 2024.04
構造規模 / 木造平家
構造設計 / 大野博史・穀野直貴|有限会社オーノJAPAN
施工会社 / 株式会社さくら住建
撮影 / 中村絵|中村絵写真事務所
担当 / 篠崎弘之・増田裕樹・Frans Jonathan・谷拓也