「住み続けること」敷地は大規模再開発が進む渋谷駅周辺の中で代官山に続く通りと再開発の進む桜ヶ丘との町境となる通りの交差する角地である。小さいながらもその変化していく環境に呼応しつつ雑踏の交差点に対峙できるような強さをもつ住居兼テナントの複合ビルである。
土地柄1棟テナントビルとして建て替えることも考えられるが、施主は長年住み続けた場所に愛着があり住み続けることに意味があると感じたため、あらゆる選択肢を残せるような更新ができることを考えた。そのため各階区画をとれるようにフラットなスラブに対して、完全に開口部を構造と切り離した厚みと幅の異なる高さ 14mの構造壁が2つの交差する通りに馴染むように敷地境界に沿ってスプリットされて立ち上がる形式となっている。
「層ごとに現れる差異」内部は外壁によって自立しているため自由度が高く、ワンルームや雁行配置の居室郡など階ごとが交差点に対して必要な距離あるいは場所を設け、それに対して開口部が設定されるため無理をすることなく生活の場を設けることができる。
低層部はガラスを開口最大で確保し、厚み450mmの外壁が通りに対し適切に視覚的距離をとる。上層部は50㎜ずつ壁厚が薄くなり、その壁厚の変化が各階にあるテーブルあるいはデスクに腰を掛けて通りを眺めた時に安心感や解放感といったそれぞれ違った印象をふとした時に感じるような小さな仕掛けを設けた。外壁にしつらえられた造作家具が建物と一体になると狭い印象を受けるように感じたため、外壁と開口部には35mmの差が設けられ、スプリットした壁を家具が横断したり、へばりついていたりと家具と建物が相互作用し空間に良い影響を生じさせている。
家具が外壁を横断する場合の設えや、一体に見せる場合の設えなど、家具と建築の関係性を丁寧に処理していくことで、程よい緊張感がより一層建物が暮らしと密接に関わる要素として取り込むことができたと感じている。
「変わらないが変化するものを意識する」建物は時間を重ねることで味わい深いものになり愛着を感じることのできるものである。幸い施主はすでに住んでいる町に対して愛着があるため、渋谷の町の「変化」に対して対峙した時に建物だけではなく、もう少し広い範囲でより愛着を持てるようにできないか試みた。
再開発が進む渋谷の雑踏や閑静な代官山の住宅街を歩き、再び交差点で敷地を眺めた時に、小さいながらも唯一「変化しないもの」を意識することでより町の変化に耐え得る構成になると考え、ビルに囲まれた交差点の中で「空」を意識することを手掛かりに選定していった。躯体面は外断熱仕上げの粗い面を残して、光や影の影響を受けやすいものとし、開口部のタイルは釉薬を用いず自然な風合いで焼き付け、晴れの日や雨の日によって表情に変化が現れるものとすることで自然と「空」を意識するような小さいながらも雑踏の交差点に自立し呼応していくビルとなり、そこで眺める変わらないが変化する通りや空といった風景に溶け込むことを目指した。
Client/ a family
Location/ Uguisudanimachi Shibuya-ku, Tokyo
Site area/ 91.75㎡
Built area/ 363.33㎡
Completion date/ April 2022
Structure/Reinforced Concrete/ Basement+ 5 story
structure engineer / Hidetaka Nakahara|Q&Architecture
Contractor/ Nagata Kensetsu Co,Ltd
Photographer/ Kenta Hasegawa|OFP
Staff/ Hiroyuki Shinozaki, Takuya Tani
クライアント/ 夫婦+子供
場所/ 東京都渋谷区鶯谷町
敷地面積/ 91.75㎡
延床面積/ 363.33㎡
完成時期/ 2022.04
構造規模/ RC造地下1階+5階建て
構造設計/ 中原英隆|Q&Architecture
施工会社/ 株式会社永田建設
撮影/ 長谷川健太|OFP
担当/ 篠崎弘之、谷拓也